今シーズン、ハンコックの専属ドライバーとして
ハンコックNSCポルシェのステアリングを握る木下みつひろ選手。
それは、単にチームの移籍ということではなく、
高校2年のレーシングカート・デビューから、
常に追い続けてきた
“プロのレーシングドライバー”としての独立でもあった。
今回は、プロについての思いなどをうかがった。

一年生の気持ちを持って。

 今回の移籍は自分にとって大きな転機なんですよ。昨年まで15年ほどエンドレスの社員という立場で走っていましたが、今シーズンから完全にプロとして独立し、ハンコックさんとのドライバー契約で走り始めたわけです。いつかプロになりたいという気持ちはありましたし、そこに憧れてレースを始めたので、これだけ車の事に集中してライフスタイルを送れるのは僕の夢でしたから、今すごく充実しています。
 同時に、プロとしての厳しさも実感していますね。これまでも結果を残すためにがんばってきたつもりですが、独りになってみると、まだ甘えがあったことに気付きます。プロは自分自身を商品として磨いていかなければならない世界ですから。ドライバーを職業とするのは今シーズンからなので、20年レースを走ってきたという感覚よりも、これまでとは意識を切り替えた中で、今はプロになって一年生という気持ちを強く持って取り組んでいます。
 それが出来たのも、エンドレスさんに社員として走らせていただいたおかげです。チャンピオンも取れたし、多くの経験を積ませていただいたことが今に繋がっているので、本当に感謝しきれないくらいに感謝しています。

自分が動くこと。

 これまでと大きく違うのは、自分が動かないと何も始まらないという厳しさですね。タイヤの開発という仕事でもレースの中でも。どんどん自分を主張してかなきゃいけないし、これまでは黙っていても時間が流れていたのが、黙っていたら時間は流れないイメージですね。やっぱりそれをすごく実感しています。
 フィジカルな面で健康管理もやっていかなければならないんで、トレーニングも始めました。筋肉や体力増強とかを総合的に鍛えています。大きなプレッシャーがありますから、気持ちの上でやらずにはいられないという感じです(笑)。
 走り方もメンタルな部分で大きく意識が変わりましたね。これまで以上に冷静に物事を見るようになりました。勝つためだけのレースだったら、気持ちだけで無理をしてしまうところもあるんですが、それをやって接触しトラブルをかかえるとパーツを活かしたレースが出来なくなってしまう。そのパーツの完璧なパフォーマンスを出すためにも、それはできるだけ避けたいんです。特に、一年目で車を仕上げ、タイヤを作っていく重要な時期ですから。相手のマシン、相手のドライビング、タイヤ、全ての動きを見ながら、どこが劣っているか、どこが勝っているか冷静に観察し、相手が劣ってきた時に抜いていくような見方になってきてると思います。もちろん、常に表彰台を狙っていますので、いける時はいきますけどね(笑)。


何かを残していきたい。

 ハンコックさんはこれから中国、アメリカ、ヨーロッパそして日本で重点的に製品を強化していく計画で、本当に真剣にやって行こうというスタンスのところに、たまたま自分が入ることができたのは大きなチャンスだったと思います。そのタイヤ開発を担当するわけですから、世界に通用し、世界で高い評価を受ける良い物を作っていくために、相当自分にムチを入れていかないといけないと思っています。
 プロのレーシングドライバーというだけでなく、そこに何かを残していきたいという想いは以前からありました。ですから、自分にとって今回のプロジェクトに参加できることの大きな意味の一つはそこにあります。良い物を作っていこうという強い意志が、ますます実感として湧いてきています。
 スーパーGTで勝つことはもちろん、自分が開発に携わったタイヤがアメリカやヨーロッパのレースでも勝ってくれれば最高ですね。それが自分のやってきたことの証明だし、一番大きな形として残せるものだと思います。毎回、走るたびに学ぶことがありますし、日々タイヤを開発する中で学び続けていくことに終わりはありません。







木下みつひろ(きのした・みつひろ)
1965年生 長野県出身

'81年、高校2年の時レーシングカート・デビュー戦初優勝。'86年、レーシングカート・全日本ナショナルFA/A1クラス参戦・優勝。'87年富士フレッシュマンレースデビュー。'88年、富士フレッシュマンレース・レビン/トレノクラス優勝2回・2位1回(全6戦)。'89富士フレッシュマンレース・NA-1600クラス優勝2回・2位1回(全4戦)。'90年、富士フレッシュマンレース・NA-1600クラス優勝4回・総合優勝。'91年ミラージュカップ参戦・シリーズチャンピオン。'92年、シビックインターカップ参戦・シリーズチャンピオン。'93年フォーミュラ・トヨタ参戦優勝'回・2位2回(全9戦・最多優勝回数記録樹立)シリーズチャンピオン。N1耐久参戦、全日本F3選手権デビュー。'94年、全日本F3選手権、JTCC参戦。'95年、JTCC参戦・ルーキー賞獲得、N1耐久参戦・TIラウンド優勝。'96年、JTCC参戦・入賞、スーパーN1耐久参戦 優勝2回・シリーズ3位。'97〜2002年、全日本GT選手権参戦、スーパー耐久参戦(1クラス鈴鹿サーキットコースレコード樹立)。'99年メモリアルレース アルテッツァ・ワンメイクレース優勝。2000年、十勝24H GTクラス・総合優勝。2001年、スーパー耐久Nプラスクラス参戦。2002年、スーパー耐久クラス1シリーズチャンピオン、全日本GT選手権GT300クラス4位。2003年、スーパー耐久、スーパーGT300クラス共にシリーズチャンピオン。
レーシングドライバー。
 
  今年、自分自身の新しいフェーズにチャレンジする木下選手。「やっぱり諦めないでやるっていうのはこの世界の一番のポイントだと思います」。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

坂本祐也選手とのペアでドライブする
#33ハンコックNSCポルシェ。
7戦を終えた時点でチームポイント15位、ドライバーズポイント17位。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
  タイヤの開発は一般車用からレーシングタイヤまで担当。
特にブランドイメージを高めるレース用タイヤの開発は急ピッチで進められる。
 
 
  
 
 
 
 
 
 
  ハンコックは中国、欧米、そして日本に重点を置いて、一層のブランド浸透を図る。
 
 
 

 

12才でカートを始め、19才からヤマハワークスのプロドライバーを経て、
FTRS(フォーミュラトヨタレーシングスクール)の第一期生としてスカラシップを獲得、
フォーミュラトヨタ、F3と確実にステップアップを果たし、
現在フォーミュラ・ニッポンとスーパーGT500という
国内トップカテゴリーを走る片岡龍也選手。
27才の若さに、これからのモータースポーツ界の期待がかかる。
今回は片岡選手にお話しをうかがった。


たまたま出会ったカートで。

 僕がカートに出会ったのは偶然なんですよ。父親がクルマ好きで、僕が小学校5年くらいまではラジコンカーのレースを一緒にやってたんです。それも全日本の予選とかまで本格的に。その時の仲間に「カート始めたから見に来て」と父が誘われ、それを見た父親がハマッてカートを一台買ったのがキッカケです。初めて走らせにいく時、僕も一緒に始めたんです。中学1年の12月でした。カートに乗るまで自動車って運転したことがないわけですが、初めてサーキットを走った時そんなに遅くは無かったんです。ラジコンはコースを上から見て走らせるんで、ライン取りやブレーキング、アクセルオンのタイミングとかある程度理解していたんですね。後は自分がそれに乗るだけ。
 父はカートに乗って一週間目、僕は二週間目にいきなりレースに出てました(笑)。だから僕のデビュー戦は予選ビリ(笑)。ただ、レースになると前のクルマ追い掛けている内に、真中ぐらいでゴールしたんです。年明けには中古でもう一台カートを買い、すごく練習をして毎月レースに出て、初優勝は始めてから半年後の5月でした。
 モータースポーツに縁もゆかりも無い家庭ですし、レーサーになろうとかの目的ではなく、ただ趣味として父親のカートに一緒に乗っただけだったのが、たまたま最初にお世話になったショップがレースに参戦していたんで自然にレースに出るようになっていったんです。

マシンのセットアップ能力。

 それからステップアップして全日本を走るようになり、高校3年の暮れにはヤマハと契約して、翌シーズンからヤマハのワークスでプロとして全日本カート選手権のトップカテゴリーに参戦、同時にシャーシやタイヤの開発にも携わるようになりました。
 開発で必要な“マシンの違いを感じる”というのはだれでも感じるんですよ。ただ、それを理解して言葉に表すことが重要なんです。なぜそう感じるのか、何を直すと良くなるのか。ドライバー同志ならどんな下手な言い方でも伝わるんです。でも開発する人は乗った事がないんで、どういう言い方で正確に伝えるかを意識しだして、そういう目でものごとを考えていくうちに、その能力が上がってくるんですね。
 レースは道具を使うスポーツなので、道具をキチっと仕上げないと、いくら「オレのウデで」っていっても、それは本当に下の方のレースだけなんです。フォーミュラニッポンやGTになるとドライバーレベルはほとんど差がないんです。ラップタイム1秒の中に十何台もいるわけで、コンマ1秒2秒をどうやって詰めていくかと言う時にマシンをセットアップする力っていうのは大きいんです。感じたことをフィードバックする能力、そういったものをカートの開発に携わることで養えましたね。

カートから4輪へ。

 レーシングドライバーを目指す上で、カートは本当に役に立つと思いますよ。今の時代F1はカートに乗って無ければムリだって言う時代ですし。カートのいいところは、まず手軽に始められること。車両が軽いんで、だれもがクルマの限界を体感することができる。カートのレースは駆け引きが多いんで、その勉強ができるし、ミラーの無いカートでレースをするのは、他車との空間を把握する力みたいなものも鍛えられますね。セッティングの大切さ、進めかたも理解できるし、なにより沢山練習できるんですよ。同じことをFJ1600で練習しようと思ったらいくら使えばいいかわからないですけど、カートならばそれが簡単に手にいれられる。今は4輪へのステップの道もありますし。カート人口も減っていますが、モータースポーツの底辺を広げる上でも、もっと子どもや若い人にカートを体験して欲しいですね。
僕の場合、プロ2年目でカートのチャンピオンを取り、次に挑戦するものが見当たらなくなったんです。当時はカートと四輪の世界は凄く分断されて繋がりがなく、クルマの世界に上がるチャンスや上がり方が全く分からなかったんですね。カートのプロでもギリギリ生活ができる位はあったんですが、この先このまま行くのかどうか、という時に一度はモータースポーツはやめようかとも思ったこともありました。
 でも、もう一年カートでっていう年に、FTRSが始まって、ここから四輪の世界に上がるきっかけをつかめたんです。一瞬あきらめかけたものが、急に湧いたチャンスで4輪の世界に入ることができたんです。今、自分自身としては、未だ取れていない国内のチャンピオンを目指しています。(以下次号)

片岡 龍也(かたおか・たつや)
1979年生 愛知県出身

'92年カートレースデビュー。'93年SLカートシリーズ中部地方選手権スポット参戦。'94年中部地方選手権シリーズ参戦シリーズ6位。'95年全日本カートFA選手権参戦。'96年全日本カートFA選手権参戦シリーズ9位。'97年全日本カートFA選手権参戦シリーズ2位。'98年全日本カートFSA選手権参戦シリーズ6位。ヤマハカート(エンジン・シャシー)開発担当。'99年全日本カートFSA選手権参戦シリーズチャンピオン。'00年全日本カートFSA選手権参戦シリーズチャンピオン。ヤマハカート・アドバイザー担当。フォーミュラトヨタ・レーシングスクール受講。'01年フォーミュラトヨタシリーズ参戦シリーズ2位。'02年全日本F3選手権TOM'Sより参戦シリーズ6位(優勝1回)。'03年全日本F3選手権TOM'Sより参戦シリーズ3位(優勝1回)。'04年フォーミュラ・ニッポン参戦シリーズ7位/全日本GT選手権GT500シリーズ6位。'05年Team Lemansよりフォーミュラ・ニッポン参戦Forum Engineering LeMans7号車/TOM'SよりスーパーGTインターチャレンジ参戦。'06年Team Lemansよりフォーミュラ・ニッポン参戦/Team Lemansより スーパーGT選手権参戦/全日本スポーツカー耐久選手権参戦。'07年Team Lemansよりフォーミュラ・ニッポン参戦7号車/スーパーGT参戦/Forum Eng.TOYOTA Team LeMans 6号車。
公式ホームページ http://www.tatsuya-k.com/

 


今年4シーズン目となるフォーミュラ・ニッポン。Team Lemansからは#7のマシンで3年目のエントリーとなる。07シーズン8戦終了時のドライバーズポイントは15位。チームメイトは#8高木 虎之介選手。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

'98年からヤマハワークスで全日本カートFSA選手権参戦。'99年、'00年と2年連続シリーズチャンピオン。「初めて乗った日から自分が人より早いって思ってましたね。でもドライバーに聞くと全員そう思ってます。みんなそんな勘違いから始まって(笑)」。'00年の8月からFTRSに参加、翌年スカラシップでフォーミュラトヨタにステップアップしている。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
  '01年に参戦したフォーミュラトヨタ。カートの実速は120〜130km/hだが、体感速度は300km/hといわれる。「それでも、初めてフォーミュラトヨタで富士を走った時は恐かったですね。実速240km/hは初体験で圧倒的に速いと思いました」。シリーズ2位となる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  '02年からF3に参戦。'03年は優勝1回を含むシリーズ3位。
(写真は'03年第50回マカオGPギア・サーキットFIA CUP F3に参戦時)
 
  
  
 
 
 
 
 

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